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1. アトリエうかい、L’ABEILLEと出会う
-養蜂場見学編-

世界一、登山者が多い山として知られる東京・八王子市の高尾山。標高は599mと、スカイツリーよりも少し低め。しかし、ここには1600を超える種類の植物が自生しており、その数はイギリス全土で自生する種類の数に匹敵します。
アトリエうかいを運営するうかいグループは1964年、高尾山の麓に創業店・うかい鳥山(いろり炭火焼料理店)をオープンしました。その頃、日本は高度経済成長期の軌道に乗りだした時代。ドライブが趣味だったうかいグループ創業者は、郊外にはおいしい料理が食べられる店が少ないと感じていました。
“自分で行きたいと思う店を、自分でつくってみたい”
そんな思いから、豊かな自然に囲まれて人々が静かに心癒せる場所を求め、ここ高尾の地を選んだのです。
春はスミレや桜、夏はヤマユリに桔梗、秋はセンブリやリンドウ。都心からほど近い立地にありながら、“花の名山”としても名高い高尾山。ありとあらゆる花々が可憐に咲き誇るこの山では、ミツバチが沢山の花から集めた風味豊かな「百花蜜(ひゃっかみつ)」が採れます。このはちみつの価値を日本全国・全世界の方々に伝えたいという思いから、はちみつ専門店を営むL’ABEILLEは、2015年より高尾山で養蜂をスタートしました。
うかいと、L’ABEILLE。同じ地で自然を慈しみ、同じ食に携わる者たちが出会うまでに、そう長く時間はかかりませんでした。

アトリエうかいのお菓子作りは「素材の良さを最大限に生かす」術を何よりも大切にしていることから、“素材を学ぶ”ことを重要ととらえています。素材には育まれた風土や環境、そして作り手が存在します。そのルーツから学んでいくことで、作るお菓子のイメージを一層膨らませることができるのです。
2022年、春。焼きたてのお菓子の香りが漂うキッチンで、今秋の限定商品に使う素材を研究するパティシエたちがいました。グランシェフパティシエの鈴木と、華やかなガトーを得意とするたまプラーザ店の山本、人気商品であるプリンの開発に携わったトリエ京王調布店の内藤です。
この日、3人はうかい鳥山のほど近くに養蜂場があること、L’ABEILLEの養蜂がそこで行われていることを耳にしました。「新作のヒントになるかも知れない」と考えた彼らは、はちみつのことを学ぶため高尾山へ向かうことに。
 
うかい鳥山から車を走らせること、約5分。山麓に軒を連ねるカラフルな巣箱が見えてきました。この場所こそが、L’ABEILLEが巣箱を保有する「明治の森 高尾国定公園」指定区域内の養蜂場です。ずらりと並んだ巣箱からはミツバチが盛んに出入りしながら、ぶんぶんと羽音が空気を震わせています。
元気に飛び交うミツバチと共に、ハチたちのお世話をするL’ABEILLEの養蜂スタッフたちの姿もそこにありました。はちみつ色のユニフォームを着た彼らが教えてくれたのは、太古の昔から続くミツバチと人類の物語。

ミツバチは3000万年前に地球上に現れ、人類は1万年以上前からはちみつを食べていたと言われています。イギリスには“はちみつの歴史は人類の歴史”ということわざがあり、日本においても『日本書記』に養蜂が行われたことが表現されていて、人類とミツバチ、養蜂の関わりは遥か昔からあったことがうかがわれます。
ミツバチの仕事は、花の蜜を集めるだけではありません。彼らが植物の花粉を運び、受粉することで実や種ができます。それを鳥や動物が食べて糞として土に落とし、芽生えからやがて野山や森へと育ち、再びミツバチや多くの生き物の糧となり、自然は循環していきます。私たちが豊かな食生活を楽しめるのも、実は野菜や果物、牧草の花を彼らが受粉してくれるおかげなのです。
自然界において、そして人類にとってもかけがえのない存在であるミツバチ。そのお世話をする養蜂家は、“ミツバチの守り人”ともいえます。ハチの様子をよく見て、いつもとの違いに早く気がつかないとハチを守れないため、L’ABEILLEでは週に2回ほど養蜂場を訪れ、ミツバチのケアを行っています。
 
夏や秋にはスズメバチが襲ってきたり、クマがはちみつを食べに来て巣を壊してしまうことも。時にはミツバチの群れ同士ではちみつを盗み合うこともあり、とても厳しい環境の中で彼らは懸命に生きています。はちみつはミツバチの大事な食糧でもありますが、L’ABEILLEは彼らの生きる手助けをして、その代わりにはちみつを分けてもらっているのです。

まっすぐな眼差しで語る養蜂スタッフの貴重なお話に夢中で耳を傾けていた3人は、どんどんはちみつの魅力に惹かれていきます。より深く養蜂の仕事を学ぶため、パティシエたちは採蜜の体験をさせてもらえることに…。
次回は実際の採蜜体験の様子をリポートします。
アトリエうかいのパティシエたちが、体験を通して
どんなインスピレーションを受けるのか? 
新たなるお菓子のアイデアも…?
乞うご期待です!