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8. 高尾にうかいの巣箱を
―前回のあらすじ―
昨年(2022年)9月、うかい鳥山にて開催されたセミナー『高尾山麓のはちみつをつかったお菓子で知る人と自然の共生』。今回はその後半の様子からお伝えいたします。
おいしく食べて、
自然環境に貢献を。
3種のはちみつ試食を終えたのち登壇したのは「高尾山麓のはちみつをつかってお菓子をつくる人」である、アトリエうかいのグランシェフパティシエの鈴木。特製のはちみつクッキーやはちみつプリンの試食と共に、商品に込めた思いを語りました。
「アトリエうかいでは、これまでレモンや栗、リンゴなどの単花蜜を主に使っていました。うかい鳥山のそばにあるL’ABEILLE養蜂場の百花蜜との出会いを通して、その類まれな魅力に惹かれたのです。
土地のテロワール(地域性)や季節の移ろいを感じられる百花蜜。口にすると広がる、単一種にはない複雑な味わい。色々な花が入っているからこそ、食べた後に余韻が広がります。
クッキーなどに入れて加熱をしても、しっかりそのまま香りの個性が残るのも魅力です。
お菓子を通してお客様がはちみつに興味を持ってくだされば、その向こうにある自然環境を考えていただけるきっかけになる。さらには、はちみつの消費量が増えていく。やがてお花が増えて自然環境が良くなり、受粉媒体を後押ししていくことにつながる。
つまり、おいしいものを食べて自然環境に貢献できる!ということ。アトリエうかいとしてSDGsに参加できるひとつの取り組みとなるのでは?と思ったのです。」
おいしいお菓子は素材あってのもの。
想いを乗せて素材の持つ物語を伝え、浮かんだシーンを再現できるかどうかは作り手にとって大切なことです。
はちみつの魅力と、その向こうにある高尾山の景色を伝えたい。
そのためにはおいしい!と思っていただけるお菓子を作ることが一番大事。
そんな思いから今回のコラボレーション商品は生まれました。
高尾ビジターセンターの梅田さんから高尾山の魅力・歴史を学び、L’ABEILLE養蜂部の加藤さんによる高尾のL’ABEILLE養蜂場での活動に触れて。そしてアトリエうかいのお菓子を味わって、学生さんたちの心に高尾山の景色が浮かんだ一日。
はちみつやミツバチの存在がSDGsのひとつである「つくる責任・つかう責任」の達成に寄与している、という確かな学びを得て、セミナーは盛況のうちにお開きとなりました。
Special Thanks:エコール辻 東京・桜美林大学・相模女子大学(五十音順)
高尾の地に、うかいの巣箱を。
時は、2023年3月下旬。
今回の一連の取り組みを経て、アトリエうかいを擁する「うかいグループ」が企業として最も感じたこと。それは、L’ABEILLEが養蜂を介して高尾山をはじめとした自然環境の保全、創出に取り組み、緑化推進のために尽力していることへの深い共感でした。
そんな背景から、L’ABEILLE の監修のもと、うかいグループもSDGsの観点から高尾山にミツバチの巣箱を所有することを決めました。
「うかい高尾山はちみつプロジェクト(仮)」のスタートです。
時は、2023年3月下旬。
高尾山麓に、今年も春がやってきました。
この日の高尾は都心と比べると2~3度ほど気温が低く、少し肌寒さを感じる気候。
都心は桜が散り始めていましたが、高尾ではちょうど満開の頃合いでした。
この日はプロジェクトの初日。巣箱を設置するための整地作業です。
グランシェフパティシエの鈴木をはじめとするアトリエうかいスタッフと、L’ABEILLEスタッフの皆様が集まりました。
巣箱を設置する場所としてまず大切なことは、日当たりと方角。
まずはうかいが所有する敷地の中から、最適な場所を探します。それから木々をユンボ(掘削機械)で作業して、なるべくひらけた平地をつくります。
朝日が巣の入口である巣門を照らし始めると、ミツバチは活動を始めます。そのため、巣門が東側になるように設置するのです。のぼりゆく太陽と共に一日をスタートするのは人間と同じですね。
目覚めたミツバチは、巣門から出ると一度上昇します。滑空スペースを確保するため、巣門の前には障害物を置かないことも重要です。ここからミツバチは蜜源を探す旅に出かけます。
そして、ミツバチが水を飲みに来るための水場を近くに設けることも大切です。
ミツバチは水を飲むのには、2つの理由があります。ひとつは、飲用にするため。もうひとつは、巣箱の温度管理のため。巣箱に持ち帰って打ち水のように撒き、羽で風を起こして気化熱で巣箱内の温度を一定に保つのです。
多様な植生を有する高尾は、水源も豊か。高尾山の森から美しい清流がながれているので、ミツバチが暮らすには最適な場所といえるでしょう。
ミツバチは効率的な動きをする生き物。蜜源の近くで効率よく、花の蜜をとれる場所に巣箱を置くのが良いとされています。
今回設置する場所の近くにも、実にたくさんの花が咲き誇っていました。
桜や水仙、スミレにカタクリ。視界に広がるのは色彩豊かな美しい光景。
鈴木がふと足元に目をやると、春の訪れの象徴であるつくしの姿が。幼い頃に、摘んでは母が作ってくれた大好きな「つくしの卵とじ」の味の記憶が、鈴木の心に浮かびます。
整地作業を行い、巣箱を置く場所が大きくひらけたスペースに。
風が通り、鳥がさえずり飛び交う姿も見られるようになりました。
ここに、まもなくミツバチの巣箱がやってきます!
いよいよ、巣箱の設置日。
4月上旬。整地が完了した場所に、養蜂場の立て看板を置きました。
この日は、昨秋のセミナーにご登壇いただいた高尾ビジターセンターの梅田さんを迎えて巣箱設置の作業を行いました。
高尾にあるL’ABEILLEの別の養蜂場から、ミツバチの巣箱が2箱現地に到着しました。1箱につき、およそ2万匹のミツバチたちが暮らしています。計4万匹のコロニーによる一大お引越しプロジェクトです。
そして巣箱を置いて、いざ“開門の儀”。
鈴木がそっと扉を開きます。中に潜むミツバチたちも最初は様子を伺っているようでしたが、1匹、もう1匹と徐々に空へ元気に旅立っていきました。
愛らしさに満ちたその光景を、鈴木と梅田さんは笑顔で見守っていました。
およそ60年前、うかいが創業の地として選んだ高尾山麓。動植物たちの楽園であるこの場所で、いよいよミツバチたちの新生活がスタートします!
彼らがこの巣でしっかりと生活を営み、健康に育つことを皆で祈りつつ、その場を後にしました。
「あれは、オオシマザクラです」と梅田さん。
見上げれば満開の桜が、足元にはタンポポやオオイヌノフグリが咲いていました。
梅田さんによる高尾山麓の植物たちの説明を楽しく伺いながら、鈴木をはじめアトリエうかいのスタッフたちとL’ABEILLE加藤さんが歩みを進めるのは高尾の山道。
巣からおよそ2キロの距離を飛び回るミツバチたち。その活動エリアの下見を兼ねた散策です。
山道では紫陽花をはじめ、これから盛りを迎える花々の新芽とも出会いました。
「数か月後には、今回設置した巣箱から桜がほのかに香る初夏の花々のはちみつが採れるかも?」鈴木の頭の中には、そんな甘い想像が広がります。
おわりに
今回でこのコラムは最終回を迎えます。
しかし、「うかい高尾はちみつプロジェクト(仮)」はこれからが本番。
巣箱設置後は、ミツバチや女王バチの健康状態、はちみつの量などの定期的なチェックを欠かさずに行っていきます。
おいしいはちみつを採取し、ミツバチたちの受粉を介して高尾山麓に緑や花が増えていく様子を今後も新コンテンツとして不定期更新でお届けしていく予定です!
そちらも引き続き、ぜひ楽しみにお待ちくださいね。
長らくのご愛読、誠にありがとうございました!
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